みなさん、こんにちは。神奈川県大和市のkeitrip/須田 恵斗です。
大手私鉄を始め、数多くの鉄道会社がある関東地方。今日は関東地方でトップクラスで影の薄い私鉄路線のご紹介です。
今回紹介する路線は、話題に上がることはほとんどありませんが、数多くの個性的な部分や便利な部分があり、ある種の最強路線でしたので、その様子も紹介いたします。
よろしくお願いいたします。
始発の小田原駅
東海道本線、東海道新幹線、小田急小田原線、箱根登山鉄道線が乗り入れる、神奈川県西部のターミナル駅・小田原駅。
JRの改札口には、名門工芸品の小田原提灯が上から吊るされていることが、有名ですね…
今回紹介する路線は小田原駅から発着。自由通路を降りた先にあるのですが、ここで初見殺し。
目の前にある大きい階段を下りると、その路線の改札に行くことができません…
階段の手前の通路を左へ進み…
階段の中間部分まで降りて行きます。
そして踊り場の部分から左へ入ると、自動改札機があります。ICカードには対応しているようです。
そう、今回紹介する路線は、ここ「伊豆箱根鉄道大雄山線」です。
特急踊り子の修善寺行きが通る「駿豆線」を保有している会社と同じ「伊豆箱根鉄道」の路線です。
この大雄山線は、小田原から大雄山までの9.6kmの路線。
大雄山駅からは、由来となっている曹洞宗 大雄山最乗寺 道了尊方面へのバスと接続しています。
最乗寺では、建立を手伝ったとされる天狗が、寺の守護神として祀られています。
そのため、駅舎とホームの間に、大きい天狗が飾られています。
大雄山線の時刻表です。大雄山線は全線単線ですが、江ノ電や遠州鉄道と同様、早朝深夜を除く終日で12分間隔で運転されています。単線路線ではかなりの高頻度運転です。
11時台の2列車が赤字になっていますが、検査を行う車両を駿豆線に送る回送列車の運行、入換時間を確保するために運休する便です。
大雄山線は、1・2番線から発着しています。
小田原駅は海側から番号が通しで付けられており…
番号 | 路線 | 備考 |
---|---|---|
1,2 | 伊豆箱根鉄道大雄山線 | |
3~6 | JR東海道線 | |
7~10 | 小田急小田原線 | 8,9番ホームは同一線路 9番ホームは降車専用 |
7、11 | 箱根登山鉄道線 | 小田急と同一改札内 |
13~14 | 東海道新幹線 |
となっています。
改札に入る前に、今回使うきっぷのご紹介です。
大雄山線が1日乗り降り自由になる「金太郎きっぷ」です。発売金額は560円。
ということで、目の前に停まっている、先発の大雄山線の車内に入っていきましょう。
大雄山線の車両は、全てオリジナル車両の5000系で運転されています。7編成所属していますが、編成によって特徴があります。
と言うことで、5000系7編成の特徴を詳しく解説していきます。
大雄山線の車窓は、車両紹介後に行います。
大雄山線の車両の紹介
5501編成
5501編成は、1984年製造の車両です。
当時駿豆線で増備が進んでいた3000系を、大雄山線規格の18m車体サイズで導入されました。
この5501編成は、大雄山線で唯一鋼製車体でかつ補助電源装置が電動発電機の編成です。
大雄山線創立100周年を迎えた2016年からは、「赤電」カラーとなり、前面には系統版が掲げられています。
5000系全7編成の共通事項として、運転台は京急800形同様の、右手操作式のワンハンドルマスコンが採用されています。
また、全車両18m車体の抵抗制御で、全編成東急車両製造となっています。
5501編成~5505編成の共通事項ですが、
大雄山線は全列車、小田原⇔大雄山を往復するのみで、途中駅止まりの電車がありません。
そのため方向幕ではなく、バイナリーヘッドマーク式が採用。
あらかじめ「小田原」と「大雄山」がセットされており、行先側を点灯する仕組みです。
この仕組みは、鉄道車両だと5000系にしか採用されていません。
小田原駅基準で、山側が「大雄山」海側が「小田原」となっています。
大雄山寄りの先頭車には、車いすスペースが設置されています。
第1編成~第5編成の共通事項ですが、中間車両には菱形パンタグラフが2つ設置されています。
車内はロングシートで、赤いモケットが採用。
優先席は片側のみの設置で、つり革は黄色の物が採用。シートはシルバーのモケットとなっています。
つり革は、座席前はE231系などと同様のおにぎり型の物が採用。通路上のつり革は、丸型の物が採用されています。
国鉄型の電車同様に、つり革が設置されています。
5502編成、5503編成、5504編成
1986年以降に製造された編成は、軽量ステンレス車体に変更。補助電源装置が静止型インバータに変更されました。
5504編成は、2019年度より帯色がイエローカラーに変更。
「イエロー・シャイニング・トレイン」の愛称が付けられています。
5505編成
5505編成は、1990年に製造された編成です。
この5505編成は、2019年に緑色に塗装が変更。
「ミント・スペクタクル・トレイン」の愛称が付けられています。
5505編成の中間車両の車内全景です。
中間車両のみ、関東では数少ない転換クロスシートが設置されています。
側面には、LED式の行先表示機が設置されています。3文字のみの表示のため、小型のものが採用。
5506編成、5507編成
1993年以降に製造された5506編成、5507編成は、多くの仕様変更が行われました。
写真をご覧いただくと分かる通り、前面表示機がバイナリーヘッドマーク式からLED式になりました。
5505編成同様、側面にLED式の行先表示機が設置されています。
5506編成、5507編成は、全車両転換クロスシートが採用されています。
ロングシート車と異なり、ドア付近につり革が設置されています。
ドア付近のつり革は、名鉄の車両と同様、天井から直接つり革が吊り下げられています。
パンタグラフは、菱形から下枠交差型の物に変更されました。
5000系の編成ごとの違いまとめ
編成 | 車内形態 | 車両塗装 | 行先表示機 | パンタグラフ | 補助電源 | 製造年度 |
---|---|---|---|---|---|---|
5501編成 | ロングシート | 赤電塗装 | バイナリーヘッドマーク | ひし形 | MG | 1984年 |
5502編成 | ロングシート | 通常塗装 | バイナリーヘッドマーク | ひし形 | SIV | 1986年 |
5503編成 | ロングシート | 通常塗装 | バイナリーヘッドマーク | ひし形 | SIV | 1987年 |
5504編成 | ロングシート | 黄色塗装 | バイナリーヘッドマーク | ひし形 | SIV | 1989年 |
5505編成 | ロングシート 2号車転換クロスシート | 緑色塗装 | バイナリーヘッドマーク 側面 3色LED式 | ひし形 | SIV | 1990年 |
5506編成 | 転換クロスシート | 通常塗装 | 3色LED式 | 下枠交差形 | SIV | 1993年 |
5507編成 | 転換クロスシート | 通常塗装 | 3色LED式 | 下枠交差形 | SIV | 1995年 |
コデ165
大雄山線の機関車代用の電車です。
この車両は昭和3年(1928年)に製造された車両で、工事用車両として夜間の工事や、検査車両の牽引を担当しています。
大雄山線を訪れた日はコデ165が走る日だったので、それを撮影してきました。
大雄山線乗車記 小田原→大雄山
小田原駅発車
発車の直前、大雄山からの電車が隣のホームに入線。
そして、出発信号機が進行を現示した直後、発車ベルが2回鳴りドアが閉まります。
1回目のベルは、東急電鉄で使われている発車ベル。
2回目のベルは、電鉄富山駅で使われている発車ベルです。
信号は2位式のもので、停車場間(交換駅間)が1閉そくの自動閉塞式(特殊)のようです。
発車してすぐ、S字カーブを描きながら、下り勾配で進んでいきます。
車内放送が行われます。自動放送なのでワンマンかと思いきや、車掌が乗務しています。
坂を下りきった直後、次の緑町駅に到着。小田原との距離は、わずか400mです。
緑町駅発車直後、半径100mの急カーブがあります。急カーブを終える直前、JR東海道線、東海道新幹線の下を潜ります。
この急カーブ等によって、大雄山線の規格は18m車となっています。
その後、50kmまで加速して、住宅街の中を走ります。
井細田(いさいだ)に到着です。「いほそだ」では無く「いさいだ」と読む難読駅名です。
発車後50kmまで加速し、次のカーブを右へカーブ。
そして左へカーブすると、遠方信号機が減速を現示しています。
よく見ると、遠方信号機が2連続で設置されています。見通しが悪い中、遠方信号機と場内信号機の間に”中継信号機”が使われないのが、個人的に面白いです。
場内信号機が警戒を現示、25kmまで速度を落とします。
五百羅漢駅到着
発車して6分弱、五百羅漢駅に到着しました。最初の交換駅です。
安全側線はありませんが、先ほどの警戒現示を受けて、小田原行きと同時入線しています。
これにより、単線特有の交換待ちがほとんど起こりません。
こちらの駅は、マンションの1階に駅舎がある不思議な駅です。
駅名の由来は、駅の真後ろの立地している「玉宝寺」にある「五百羅漢像」から来ています。
五百羅漢駅発車直後、小田急小田原線と立体交差。
五百羅漢駅から直線距離で400mのところに、小田急の足柄駅があります。
停車本数はこちらは毎時5本、小田急は3本~4本なので、小田原へ向かう場合は私だったら大雄山線を使います。
立体交差後、大きくS字カーブを描くと、厚木JCTと小田原西ICを結ぶ「小田原厚木道路」と立体交差し…
穴部駅に到着。
穴部駅発車後、進行方向右側が開けてきて、田園風景となります。
狩川の土手が近づいてきて、S字カーブを描くと、飯田岡駅が見えてきます。
飯田岡駅では、出入り口の関係で、車掌が前方の運転台にやってきてドア扱いが行われるようです。
飯田岡駅を発車し、しばらく直線を進むと、2つ目の交換駅、相模沼田に到着です。
飯田岡駅発車後、南足柄市に入ります。南足柄市の鉄道は、大雄山線のみです。
相模沼田駅到着
相模沼田駅は、大雄山線で唯一の相対式ホームを持つ駅です。こちらでもほぼ同時入線ですれ違います。
相模沼田駅発車後、住宅街に囲まれた直線を走ります。
少し左へカーブすると、岩原駅に到着です。
岩原駅を発車。お隣の塚原駅が見えます。
その距離はわずか300mで、神奈川県内でトップクラスの短さです。
加速してすぐに、塚原駅に到着。1分も経たずに到着しました。
以前、塚原~岩原間で、電車と勝負する動画を見かけたのを思い出します。
塚原駅発車後、勾配を上りながら右へカーブ。ここのカーブは、大雄山線の撮影地として知らています。
その後、狩川を渡っていき、勢いよく加速。
塚原と次の和田河原間の距離は大雄山線最長の1.9km。
そのため、最高速度の70kmで走ります。この区間が一番モーター、ギアが唸っているように感じます。
左カーブへ入ると、和田河原の遠方信号機が見えてきます。こちらも五百羅漢同様、遠方信号機が2連続しています。
和田河原駅到着
最後の交換駅、和田河原に到着です。最後の交換駅となります。
こちらでも、小田原行きと同時入線で駅に入ります。
この和田河原も、五百羅漢と同様、マンションの1階に駅舎があります。
和田河原を発車。少しだけ勾配を下って右へカーブします。
最後の途中駅、富士フイルム前に到着です。小さい「ィ」ではなく大きい「イ」です。
駅を出て狩川を渡った先に、富士フイルム 神奈川事業場足柄サイトがあります。
富士フイルム前発車後、500mで終点・大雄山駅に到着。
発車してすぐに、大雄山駅の場内信号機が見えてきます。場内信号機の下には、誘導信号機があるのも確認できますね…
終点・大雄山到着
大雄山駅到着前、線路が左右に広がります。大雄山線の車庫は、終点の大雄山にあります。
北陸鉄道浅野川線内灘駅とか同じですね…
小田原から21分、大雄山駅に到着。到着後、ちょうど電車の入換が行われていました。
車両紹介で触れた工事用車両コデ165は、普段は大雄山駅で休んでいます。
先述の通り、この日は大場工場を出場した5502編成を牽引するため、準備が行われていました。
大雄山駅とその周辺の案内
大雄山駅の駅舎です。THE終着駅と言う風貌で、模型の世界にいるみたいです…
この大雄山駅は「関東の駅百選認定駅」に選ばれています。
2012年には、南足柄市の登録有形文化財に指定されました。
駅舎内もどこか昔懐かしい雰囲気です。
大雄山線の自動改札機は、両端の小田原駅と大雄山駅のみに設置されています。
改札を出て左手には、自動販売機と南足柄市に関連するコーナーがありました。
大雄山駅がある南足柄市には、「金太郎」が熊と相撲した場所として知られる足柄山があります。
そのため、写真の通りの、熊に乗った金太郎たちの銅像モニュメントが置かれています。
2015年より大雄山駅では、童謡「金太郎」が発車メロディとして流れます。
「まさかりかついで金太郎~ 」を聴いて、小田原に発車します。
大雄山最乗寺へは、伊豆箱根バス「道01」「道02」系統、道了尊行きに乗って、終点・道了尊で降ります。
所要時間は10分~15分。運賃は280円で、交通系ICカードが利用できます。
また、大雄山駅前にある箱根登山バス「関本」バス停から、
新松田行きのバスが日中は20分間隔で、金太郎伝説の金時山(足柄山)方向へ向かう、地蔵堂行き、足柄万葉公園行きが、16時台まで1時間当たり1~2往復運転されています。
駅前には複合ビル「ヴェルミ」があり、小田原百貨店大雄山店や、多くの飲食店などが入居しています。
まとめ 大雄山線の面白要素
- 関東では極めて珍しい”転換クロスシート“が運転されている
- 中小私鉄なのに全電車がオリジナル車両
- 全7編成が同じ形式ながら、車体や座席などバリエーションが豊富
- 全車両が抵抗制御で、VVVF車が多い関東では貴重な存在
- 中小私鉄なのに全列車に車掌が乗務している貴重な存在
- 珍しい行先表示機「バイナリーヘッドマーク式」が見られる
- 12分間隔の高頻度運転で超便利
- 戦前生まれの旧型国電「コデ165」がたまに運転される
- マンションの1階に駅舎がある面白い駅が2つもある
と、様々な個性的な部分や、便利な部分があります。
そして、車両や駅の様子を見るとほどよく古くて、私のような10代~20代~30代から見ると、どことなく懐かしさを感じる「平成レトロ」な路線です。
東京などからの日帰り乗り鉄旅や、伊豆半島や箱根、小田原の旅を楽しまれた際に、ついでに訪れるのにもちょうどいい路線です。
気になった方は、ぜひ大雄山線を一回でもいいので訪れてみてください。
おわりに オアシス的存在な鉄道
どんどんと古い車両の置き換えが進んでいる関東地方。
その中で何か大きな注目が無く、のどかで平成レトロなこの大雄山線は、目まぐるしく変わる関東の鉄道の中で、ある種のオアシス的存在と言えるでしょう。
あと、5501編成の赤電もかっこいいので、ぜひ撮ってみてください。写真映えする車両です!!!
今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました。